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11月12日に実施した第二回降下リハーサル時に、試料採取地点を含むイトカワ表面に ついて、
空間分解能1cmを切る極精密な画像を取得するのに成功しました。

 

 
皆さんがお持ちのデジタルカメラの「画素数」はいくらですか?はやぶさ探査機に搭載された
望遠型光学航法カメラ(ONC-T)には、0.012mm角の画素が縦1024個x横1000個で合計約
100万個並んだCCD(電荷結合素子)が組み込まれていて、小惑星イトカワから反射する太
陽光を受けてその表面の様子を撮像します。高度5kmからONC-Tで撮像すると、一画素当り
約50cm角の空間を捉えることができます。これを「空間分解能」と呼び、イトカワ表面上の大
きさを見分ける能力の目安になります。ONC-Tの視野の広さは一定ですから、はやぶさが高
度を下げるほど空間分解能は向上して、小惑星表面のより小さな地形や細かい構造が見分
けられるようになります。

 
  (1) 試料採取地点の様子を解明 

第二回降下リハーサルを実施した11月12日、はやぶさはイトカワ表面上空約55mまで接近
して、その前後にNC-Tの撮像も行いました。その結果、 ONC-Tの焦点が合うぎりぎりの高
度である約60-75m上空から、小惑星表面の微細な様子の撮像に成功しました。このときの
空間分解能は一画素当り約6-8mmほどで、地球上なら約6-8m四方の地面を這うアリを見
分けられるほどの細かさです。これほどの高分解能画像は、もはや従来の惑星探査機の
リモートセンシングというよりも、火星表面に水の作用によって作られた堆積岩や丸石を発
見したNASAの火星探査ローバのように、小石一つ一つの形、表面のキメやひび割れまで
判別できる、岩石学の領域に踏み込んだデータと言えます。もとよりイトカワ表面の岩石は、
地球に達すれば全て「隕石」ですから、私達はまさに「隕石のふるさと」の真の姿を目にした
のです。

 



    図1:11月12日の第二回降下リハーサル時に望遠型光学航法カメラ(ONC-T)でとらえた
試料採取予定地点(A点)を含む「ミューゼスの海」と岩石地域の境界。左が一画素当り
1.5~2.0cm程度の空間分解
能を持つ、最も精密な画像。右端の丸枠内はイトカワ表面に
映るはやぶさ探査機の影。

 
 

図1は、今回広角型光学航法カメラ(ONC-W1)で撮像された滑らかな地域「ミューゼスの
海」の全景(右)と、高度160m程度まで降下したときにONC-Tで撮像した同地域と岩石
地域の境目のクローズアップ画像(左)です。「ミューゼスの海」は、19日以降に挑戦する
試料採取の予定地点「A点」がある地域で、クローズアップ画像の右端が直径60mのA点
の外縁に当たります。いわばここは「ミューゼスの海の波打ち際」であって、岩石地域であ
る左下から「ミューゼスの海」の厚みが増す右上に向かって、一定面積当りの大きな岩の
数が少なくなるだけでなく、大きな岩と岩の隙間を埋める砂利のサイズもだんだん細かく
なっていくのが分ります。クローズアップ画像の空間分解能は一画素当り約1.5~2.0cmで
すので、右上の一番細かい領域で見えている最小の砂利も同じくらいになります。 

大気のない固体天体表面を覆う粒子を「レゴリス」と呼びます。その多くは外部からやって
きた隕石が天体に衝突したときに放出された破片が、重力などの効果で表面に舞い戻った
ものと考えられています。岩盤だらけのイトカワにあって、「ミューゼスの海」はレゴリスが
集まっている最も大きな領域です。衝突による放出粒子のうち小さなものは、速い脱出速
度を獲得しやすくなります。イトカワは重力が小さいために脱出速度が毎秒20cmほどしか
ありません。そのため高速で放出される、1mmよりもはるかに小さなレゴリスはほとんど
表面に残れず、仮に運良く舞い降りたとしても静電気力や太陽輻射圧で短時間のうちに
再び宇宙空間に吹き飛ばされるだろうと予想する科学者もいます。今回の画像はそれを
間接的に裏付けています。なお、はやぶさのサンプラーチームは大きな岩盤やmm未満
の粉体からの試料採取実験に加えて、撃ち込む弾丸(直径約1cm)と同じ位の大きさの
砂利が敷き詰められた標的にも撃ち込み実験を行い、十分な放出量が見込めることを
確認しています。

 

  (2) 二ア・シューメイカーを越えた小惑星表面の詳細観察

 


    図2は、はやぶさが撮った「ミューゼスの海の波打ち際」と、一年間のリモートセンシング観測
を終えて周回軌道を降下させたNASAのニア・シューメイカー探査機が、2001年2月12日に小
惑星エロス表面に不時着する直前に地球へ送ってきた接近画像の「最後の一枚」を、ほぼ同
じ縮尺で比べています。エロスはイトカワと同じS型ながら、サイズが数十倍大きな近地球型
小惑星です。「ニア・シューメイカー最後の一枚」は高度約120mから撮像されたもので、空間
分解能は一画素当り1.1cmほどです。しかしその全視野の画素数ははやぶさの約1/8に過
ぎません。この画像の中のエロス表面は、角が取れた大きな岩を境に、cmオーダーの表面
粗さのレゴリス地域(右)と、それよりもはるかに細粒なレゴリスが平らかに覆った地域(左)
に分かれています。さらにイトカワとエロス、二つのS型小惑星のレゴリス地域を比べると、
天体サイズの小さなイトカワのほうが、全表面積にレゴリス層が占める割合は小さく、大きな
岩を埋める厚みも薄く、最も細かい粒子サイズでさえcmからmmオーダー程度の比較的
「大粒」のレゴリスであることなどが分ります。 

今回のONC-T画像は、もはや二ア・シューメイカー探査機の不時着前画像を超えて、人類
が目にする最も分解能の高い小惑星表面の姿をとらえました。同じくリハーサル時に放出さ
れた「ミネルヴァ」が今後イトカワに着陸してその記録を破らない限り、この記録を更新する
のは11月19、25日にタッチダウンを予定しているはやぶさ自身になるでしょう。もちろん二回
のタッチダウンでは、「ミューゼスの海」中心部の試料採取地点の撮像に挑む予定です。
それらの成果によって、ミネルヴァに期待されていた世界初の小惑星表面探査における科学
的課題の多くは補えると考えられます。イトカワは、月、金星、火星、タイタンと並んで、表面
状態が最も細かく調べられた太陽系天体になったと言えます。
 
 
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